ヒロシマ:01


8月6日8時15分。ヒロシマの空は、光った。

赤い色の、大きな、大きな、キノコ雲。
そして、猛烈な爆風!

私は爆風にどわっとおされて、遅刻して走っていた学校の校門にぶつかった。
そしてその時、校門に勢い酷く頭を打ち付けて、気を失った。

どれくらい気を失っていただろう。何かが焼ける匂い、誰かの叫び声、
尋常じゃない雰囲気に、我を取り戻す私。
でも目の前の状況に、すぐさま、再度、気を失いそうになる。

みんな服を着ていない。みんな半裸だ。
腕の皮膚が、着物の袖みたく、地面スレスレにただれ伸びて歩いている
大勢の人。
赤ちゃんの首がとれているのに、まだその赤子をおんぶひもで背負う母親。
脳みそが飛び出し、お腹が風船みたいに膨れ上がってる人。
目玉が垂れ下がっている子供を連れて歩く、顔がただれて目鼻がわからない
母親。

そして、折れた電柱は、火を吹いていた。

うわ、うわわ・・・。

私は腰が抜けたまま、後ずさり。
みんなのいる、毎日通う教室に逃げるために、振り返ると、校舎は、
2階と3階が崩れて、1階にのしかかって倒れていた。

学校が・・・崩壊しててる・・・!?

そして、喉が渇くらしく、運動場横の浄化槽に、皮膚のただれた学校のみんなが
手で水をすくおうとして、でも、水をすくえなくて、そのまま浄化槽に落ちて、
動かなくなってゆく。

そして、同じく皮膚のただれた大人が1人、浄化槽に近づく。
みんなに水を飲まそうと、両手を浄化槽にいれるのだけど、その大人も、
ソレ以上は動けなくなって、浄化槽に、落ちた。

その大人は、髪を赤い紐でくくっていて、その髪をくくる赤い紐が、いつも
優しい優しい、あの担任の伊藤先生だと気づいて、私は、愕然とする。

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

い、家に、家に帰らなきゃ!家に帰らなきゃ!
お母さん!お母さん!お母さん!!!!

学校から家まで走る。
走っている最中、周囲の家まで崩壊しているのに気づく。
歩いている人は、みんな皮膚がただれて、でも、ただ、歩いてる。

何がおこったんだ!?何がおこったんだろう!?

学校から家までは走って5分。
お父さんはお医者さんで軍医として徴兵されてて、でも家には、1歳の雄大と
5歳の大地とお母さんがいるはず。

家に辿り着くと、平屋建ての家は、屋根から全部、ぺちゃんこになっていた。



・・・・・・・。
何コレ?家までこんなになっちゃってて、何がどうなっちゃってるの!?

「お母さん!雄大!大地!」
叫ぶ私。

「ううう・・・」
つぶれた家の下から、うめき声が聞こえる。
お母さん!お母さんの声だ!!!

「お母さん!!!」
私が叫ぶと、姿が見えないけど、お母さんは返事をしてくれた。

「桜・・・桜なのね!?家が突然倒れてきて・・・。
お母さん、足が挟まれてしまっていて・・・。雄大と大地がどこにいるのかも
わからないし・・・」

「お母さん、私が助けるよ!待っててね!お母さん!!!」
声を頼りに、屋根の落ちてきてる瓦をどける。
大きな柱を拾ってきて、「てこ」の応用でお母さんを押しつぶす梁をどける。
なかなか上手くいかないけど、何度も奮闘すると、つぶれた家からお母さんの
苦しそうな半身が顔を出した。

「お母さん!!!」

「桜・・・桜・・・」
言いながら、お母さんは、道を歩く、皮膚のただれた人達を見てビックリする。

「アメリカの新型爆弾でも落とされたのかしら・・・。でも、桜が無事で
良かったわ・・・。春子、良かったわね・・・」
「お母さん、お母さんは私が助けるから!!!」

お母さんの体に乗っかる柱をどんどんどかす。お母さんが、おしつぶされた
家から脱出出来ますように・・・。

柱をどかしているうちに、視線のはじに、別の人間の腕が見えた。
あっ、雄大か大地かも・・・!!!
「お母さん!雄大か大地が先に助けれるかも!」

そちらの方の押し潰れてる柱が少なそうだったので、お母さんの体を出すのを
一旦止めて、腕の見える場所の柱をどんどんどける。

そうしたら・・・案の定、雄大だった!!!
家の下から雄大を抱き起こす。
雄大は気を失っているらしく、体を揺らして、ほっぺを数度叩くと、我に
かえった。

「・・・お姉ちゃん・・・。
あれ?お母さん、お母さんはどこ・・・?」

「お母さんも家の下にいるから!一緒に助けるよ!!」

状況を把握してないままに、私の勢いに、何かやらなければ、と思ったの
だろう。
雄大は5歳なりに、柱の撤去を手伝ってくれる。

2人で柱をどかす。柱をどかす度に、お母さんの上半身が段々見えてくる。
でも、どうやら腰辺りに大きな柱が倒れてきているらしく、そこから全然
動かない。

「待っててお母さん!誰か、手伝ってくれる大人の人を呼んでくるから!」

お母さんから離れて、道へ誰かを探しに行こうとした瞬間、
近くの家で燃えていた、炎が、お母さんを押しつぶしている、私の家に、
ごうっと、燃え移った。


!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「お母さん、お母さん、火が!!!!!!!!!!」

「桜・・・桜・・・あなたまで燃えてしまうわ・・・。
逃げなさい。ここから逃げなさい」

「でもお母さんが・・・!大地も・・・」

「桜!」
お母さんが、いつもの私を叱る時と同じ大きな声を出して言った。
私はびくっとする。

「あなたは・・・生きなさい・・・」

!!!!!!!!!!!!!!!!
お母さん!!!!!!!!!!!

私は、よろよろと燃え始めた家から離れる。
「雄大の事も、よろしくね」
そう言って、とても微笑めれる風じゃないのに、お母さんは、私に向かって、
確かに、微笑んだんだ。


ごめんなさい!お母さん!お母さん!

周りには、皮膚のただれた人達。または、そのまま道で倒れて死んでいる人達。
あちこちから火があがる。
私は雄大をおぶって、死体の山を越えて、火を避けるために、川へ、向かった。



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