アルゼンチン:2 「雪山登山で遭難しかかって死にそうになる」


うっかり9時間に及ぶ単独雪山登山であまりの過酷さに記憶を失って遭難しかかる。

「トレッキング」という「景色の良い道を散策」。又は
「ただただ歩く」事に寄るランナーズハイに似た「登山ハイ」という「軽いトリップ」。
が予想以上に楽しくて連日登山。


頭が赤くて体の黒いキツツキがコココと大きな音を響かせて木をほじくる。

3時間程進んで、山頂まで後1時間という地点にある山小屋で一休み。
ハムとチーズをはさんだサンドイッチを流し込んでふと外を見ると
登山の途中からほんの少しだけ降って、でも一瞬で止んで。を数回繰り返していた雪は完全に止んでいる。
「雪、止んだ!多分もう降って来ないだろう!コレは山が行け!って言ってるに違いない!」
と勝手に素人判断して更に登山。

30分程登ると雪は再度降り始め、強さを増した風と雪でほとんど「ふぶいている」という状態になる。

視界はごうごうとふぶく白い雪で数メートル先の目印ポールを薄っすら見つけるのがやっと。
びゅうびゅうと横風が強くて重心を持っていかれて何度も転倒しそうになる。
積雪が凄くて足首どころかふくらはぎまでズボズボ埋まる。
既に足の爪先は寒いとか痛いとかを越えて麻痺して、感覚は無い。

途中2度程、死ぬかな?とか、思う。
でも旅路で死ぬのも、まあ良いかな。とか、思う。

良くない良くない!こんなトコで死んだら沢山の人に迷惑かかるし!
こういう観光客が地元の人に迷惑かけるんだよ!良くない!良くない!

山は魔物です。


なんでこんなツラい思いをして進むのか。
この先には何があるのか。
何故かゲラゲラ笑えてくる。
「あほかー!!」「私何やってんのだー!?」ムダに叫ぶ。

山頂近くになればなるほど風と雪は勢いを増す。
引き返せば良いのに、寒さで麻痺して完全に我を忘れているので冷静な判断が出来ない。

そうして、とうとう山頂の向こう側にたどり着く!

そこにはそこにはエメラルドグリーンに透き通る大きな大きな湖!

とうとう辿りついたぞ!やった!!という達成感!とかでは無く、
コレ以上進まなくてイイんだ!という安堵感!

足取り軽く、跳ねた声で、帰る!帰る!と歌を歌いながら、何度も尻もちをつきまがら
下山。

ようやく先程の山小屋まで戻る。
ココまできたら後はなだらかな道を3時間下るだけ!バンザーイ!


とか思った時点で記憶は、
途絶える。


気がつけば山小屋近くの、行きにも通り過ぎるだけ通り過ぎたキャンプ場。

さっきの山小屋からキャンプ場まで普通は歩いて15分の距離。
時計を見ると山小屋を出て1時間30分経っている!

やっべえ!!何してたんだ!私!
どこをどう歩いたらこんなに時間がかかるんだ!?
何となく沢山の小石が転がる川原を歩いていた記憶はあるけど、そんな道、行きには通って無いし!
賽の川原で無い事を祈るケドね!いやマジで!

つーか私遭難しかかってたんじゃん!
ひょっとして死ぬトコだったんじゃん!

・・・全然シャレになんねえ!!!!!


少し混乱しながらキャンプ場にヒトツだけ張られたテントを見つける。
「お茶を1杯頂けませんか?」とか日本昔話風に訪ねる。
アメリカ人のナンシーに入れてもらった、喉がやけるように熱いミントティーに、
冷え切った体は体温を取り戻す。
あー生き返ったってカンジするわ。大げさじゃ無く、ナンシーに命を救われたってカンジするわ。
もう「アメリカ人は大抵太ってる」とか、アメリカ人の悪口ギャグ言えません。

こんな日に山でスレ違ったクレイジーなヤツはやっぱりアメリカ人とイスラエル人各1人!
アメリカ人とイスラエル人と日本人は世界を代表するバカだ!という私の持論が証明されました!
証明されなくてイイっつーの!


ヨボヨボになって宿へ帰るとロビーにいた登山家全員の注目を浴びる。
「雪山登山なんて君は勇気がある。」とか驚いた顔で褒め称えられたりする。
違うよ!バカなだけなんです!後先考えてないだけなんです!つーかもう本当にゴメン。
誰に謝ってるんだかわかんないけど、本当にごめんなさい〜。もう許して〜。

質問ぜめに合いそうになる中を逃げるように部屋に戻り、雪で濡れたままのジーンズを履いたまま、
泥のように、眠る。



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