ボリビア:3 「うっかり恋をして死にそうになる」


スレ違いざまに、電話をかけるマネをしながら「ありがとう」とか言われる。
相変わらずのボリビア人の意味不明な日本語攻撃。


高地を逃れて辿り着いた先は、ブラジルの国境にほど近い街サンタクルス。ジャングルが近くて大変温暖。
ビーチでもないのに昼真ッから半裸でビールを飲んでるオッサンが沢山いて、ソレだけで何だかムダに、浮かれる。


安宿の3階にある、日差しを沢山沢山浴びる大きなテラスに無理矢理ビーチチェアを持ち込んで
得意の「ドコでもおうち!」または「ドコでもビーチ!」を展開。

隣にはペルーのクスコで気管支肺炎になって入院して、その看病をしたきっかけで親しくなった
マチュピチュにも一緒に行ったチャリダーのヒト。

2人で何をするでも無く、ただただじーっと目をつぶって、ぼんやり、する。
ピンク色したプチプチしたモノがカラダ中から溢れるような、幸福感。
幸せとはきっと、痺れるような事でもなくて、ギラギラするような事でもなくて、
こういう風に何でも無い事なのだよなぁ。なんて、想う。

2人でモノマネごっこ。「輪島」のモノマネから始まり「春風亭昇太」「オオサンショウウオ」
「アメリカザリガニ」最終的には「WINDOWS98」既に形態模写だっつーの。


何だか会話が変態ぽいわ。と気を取り直して動物園へ。
池で亀が延々交尾をしていて相当笑う。
ピューマの檻の前で「あのピューマはデブだ。模様も大柄だし。」とか悪口言っていたらお尻を向けて
おしっこをかけられる。

コーラを買おうと売店へ行くと「日本人か。」と聞かれるので「そうだ。」と答えると
「コカコーラは日本では何て言うんだ。」と聞いてくるので「コカコーラだ。」と答えると
マジでビックリされる。同じだっつーの。会社だっつーの。



とにかく私がバスで3時間の距離を彼が自転車で3日かけてやって来る。
私が次の街で彼を待つ。

砂漠を1人走る彼。
街灯ヒトツ無い道を、星明りを頼りに走る彼。
右手には沈む太陽、左手には昇る月と星を、同時に見ながら走る彼。

ムダに日焼けしていて、手がゴツゴツ大きくて背が高くて背中が大きくて、無口で声が小さくて低くて、
穏やかで優しくて大きくて、朴訥とした笑顔が眩しい。
いつも棒付きのアメちゃんを舐めていて、カラダから甘いニオイがする。
彼が自転車で走ると後ろの車輪から星がひゅんひゅんひゅんひゅん流れるみたい。
そのまま月まで走っていってしまいそう。


ほんの少しの間一緒に旅させてもらったけど、待っていないと思っていた彼女が日本で普通に待ってる事が
判明してあっさり、振られる。

私の王子様は白馬じゃなくて自転車に乗っていたんだ。なんて妄想全開で想ったりしたけど、違ったみたい。


短いキスをして、滑るように霧の中へ自転車で駆けてゆく彼を、手も振れずに、いつまでもいつまでも、見送る。



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