ペルー:3 「タクシー強盗に遭って死にそうになる」


タクシー強盗に遭ったなんて言って、単純に乗り合いタクシーに荷物を忘れてきちゃっただけの話。


マチュピチュ遺跡から旅の拠点となる大きな街クスコへ戻る為に、小さな街ウルバンバから乗り合い
タクシーに乗る。

いつのまにかウトウトしていて、タクシーを降りる際には、バックパックは担いでるのに、
ショルダーバッグを車内に忘れていた。

気がついて慌ててタクシーを追いかけるも、もちろん間に合わない。

バッグの中にはカメラや旅のグッズや服が!!!

随分夜になってから警察に行くも、もちろん届いていない。



ウルバンバから乗った小さな乗り合いタクシーだ。
多分、多分だけど、あのタクシーはウルバンバを拠点にしてるに違いない。
ひょっとしたらウルバンバの街の人かも知れない。
ウルバンバからクスコまで往復4時間。1日に2往復位するのが仕事だろう。
ウルバンバで1日張っていたら、ひょっとして、ひょっとして、あのタクシーが見つかるかも知れない!


翌朝10時から、ウルバンバの乗り合いタクシー乗り場でいわゆる「立ちんぼ」をする私。
もちろん売りませんよ!!

停車するタクシー全てをチェック。

「クスコに行くのか?」
「ううん。行かない。」
「じゃあドコに行きたいんだ?何してんだ?」
「昨日乗ったタクシーが凄く良い人だったから、お礼を言いたいんだ。」
全然嘘だけどまさか泥棒を探してるなんて言えないし。警戒されるし。

1日中乗り場でウロウロしてるので何度も同じ事を聞かれる。何度も同じ言葉を繰り返す。

夕方16時まで乗り場で新しい乗り合いタクシーが来る度にチェック。


さすがに疲れたよ。
こうやって6時間も探して見つからないんだ。あの乗り合いタクシーはこの村の人じゃないんだ。
残念だけど、諦めよう。仕方無い。お腹もすいたな。


聖なる谷と呼ばれる村、ウルバンバには何日もいたんだ。
毎日通った安食堂に行って顔なじみのちびっこ姉妹に
「もうこの街には来ないんだ。次の街へ行くんだ。」なんて言って一緒に公園に行く。
「ウエハースのお菓子はおいしい」というデタラメな歌を一緒に小1時間歌い踊って
ベンチで一緒にアイスクリームを食べる。

姉妹は顔中をアイスでべちゃべちゃにしながらスッゲ嬉しそうにアイスを食べる。
本当に本当に嬉しそうに美味しそうにアイスを食べるので、その顔を見てるだけで、
私は何だか大変満たされたキモチになる。


・ ・・ああ、もうイイや。
私は多分、旅でこういう瞬間を相当沢山味あわせてもらってる。多分相当ラッキーな旅をしている。
だから・・・もうカメラ位、イイや。
もう・・・クスコに・・・帰ろう。

私が見えなくなるまでいつまでも手を振ってくれる、姉妹。
ありがとね。



クスコに戻る為に乗り合いタクシー乗り場へ行く。
念の為に、念の為に、止まっているタクシーを全てチェック。

・・・バックシートに洗車用バケツのある見覚えのある、白い、車。
・・・あれ?あれあれあれあれ・・・?

運転席を覗き込む。見覚えのあるオレンジ色のミニノートと緑色のペンがダッシュボードの上に。
・・・いや、でもノートもペンも、ペルーで良く出回ってる一番安いヤツだし!

更に車内を覗き込むと、迷彩模様の折りたたみ鏡が!
・・・ソレ!ソレ!私の!日本の100円SHOPで買った鏡!!!

・・・このタクシーだ!!!!!!!!!!!!!!!


「クスコに行きたいのかい?」
立ち話をしていた運転手に話しかけられる。
「そうそう。」
急速に高まる胸の鼓動を隠しながら、ゆっくりと笑顔で、勝手に助手席に乗り込む。
運転手も運転席に乗り込む。

落ち着け落ち着け私。ゆっくりゆっくりね。笑顔で笑顔でね。
「・・・コレ、私の・・・・。」

絶句して固まる運転手。慌てて
「そうそう!荷物!そう荷物ね!昨日忘れていったよね!預かってたんだ!そう!預かってたんだよ!
バックもね、家にあるから取りに行こう!さあ行こう!」
急発進する車。

やっぱりこの村に住む運転手だった!私の読みは間違って無かった!
イエス!イエス!イエス!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


運転手の家は乗り合いタクシー乗り場から車で2分。
運転手がバッグを家に取りに戻る間、ダッシュボードを探る!
アーミーナイフ!マグライト!ハンカチ!全部私のだ!
オヤジ!便利そうなモノだけ普通に仕事中に使おうと思ってただろ!こんにゃろう!

家からバッグを抱えて運転手が飛び出してくる。
「コレだろ!このバッグだろ!」

「うわーい!コレコレ!ありがとう!」
大げさに喜ぶ私。怒り沸騰だけど、もちろん100点満点の笑顔は崩さずに。

バッグの中身をチェック。カメラ!コスメポーチ!レインコート!
でも・・・服が入って無いじゃん!私のハイテク肌着と、ブラックライト仕様のレイヴ服!!

「服なんてもともと入って無かった。」なんて言う。
入ってねえ訳ねえじゃん!!!!!

家の中にズカズカ入り込んで洗濯干し場をチェック。インディヘナの嫁ハンにも聞く。

でも、無いものは、無い。
ドコいっちゃったのかわからないけど、仕方、無い。
コレ以上モメるのはもう・・・イヤだ。
服以外の全ての荷物が戻ってきたんだ。
だから、もう・・・充分だ。


家の外へ出ると、笑顔で握手を求めてくる運転手。

「俺達はアミーゴ(友達)だ。バッグが無事見つかって良かったな?だからポリスに行ったりしないよな?」
なんて意味でしょ?

車のナンバーは控えたよ。家の住所番号も控えたよ。
でも、アナタも生活があるもんね。家族がいるもんね。
アナタが捕まると家族が困るもんね。アナタが仕事出来なくなると家族が喰えなくなるもんね。

バッグを忘れたのは私。
お金持ちの国から来ちゃった人間が、そうじゃない国で、お金持ちで無い人の手の届く場所に
お金持ちの国の荷物を忘れた私が、悪い。
純粋に普通に働くタクシー運転手に悪い事をさせちゃったね。
悪いのは、私。
だから、このメモした紙切れは、捨ててあげるよ。

・・・ごめんね。



家族の待つ家に帰る農作業帰りのペルー人を、乗り合いタクシーは追い抜いてゆく。
車窓から見えるのは緑のグラデーションのただただ広がる田園風景。

私は・・・ドコかで、ペルー人は日本人じゃないからって、ただソレだけの理由で、人間じゃないと、思ってた。
自分とは違う、何か別の生き物だと思ってた。

ヘタすると、自分は日本人で先進国の人間で、ペルー人は発展途上国の人間で、
だから・・・ドコかでドコかで・・・自分の方が上だと思ってた。ペルー人を下に見てた。

でも、ペルー人もみんなゴハン食べなきゃいけない。働かなきゃいけない。家族を養わなきゃいけない。
生活しなきゃ、いけない。
みんな、やってるコトは、やらなきゃいけないコトは・・・同じだ。

日本人と、同じ、だ。
みんな、同じだ。

みんな同じ・・・人間だ。


みんなが夜ゴハンを囲む家の明かりがぼんやり瞬く小さな街をいくつも抜けて、タクシーは走る走る。



BACK
TOP