チリ:3 「イースター島で迷子になって死にそうになる」


イースター島で、村の中心部から遠い場所に住む家族と仲良くなった。

ある日、その家族の家にお泊りする事になって。
チラリ、一緒にサンセットを見たり、一緒に食事をしたりしてダイブ仲良くなった
ファッチマ(宿のオーナー)に連絡入れた方が良いかなと、思うも、
この家も、ファッチマも電話無いし、まあイイヤと、そのまま連絡しないでいた。

その日の夜は、村全体が、何だか騒がしいな、とは、思ったのだけど。


翌朝、宿泊させてもらった家の前で太陽さんにおはようの挨拶をしていると、
ファッチマが車でやって来て、私の姿を見つけると、凄い勢いで車から降りてきた。

あれ?ファッチマ?何でこの場所が・・・?
ていうか、何?何で迎えに来てるの?

ファッチマは、足元はズタズタと大音をたてて、なおかつ、凄まじい形相で、
こちらへ向かってきた。

その時、あっ、ひょっとしてファッチマ、私の事探していてくれたのかも!?
昨日帰らなかったから・・・?って思って。


でも、時遅く、
ファッチマの右手は、私の頭上にむかって、大きく「グー」にして振り上げられて!

体をちぢこませて、両腕で頭を守るような姿勢になって。
私は「殴られる!」と身構えた!


そうしたら、ファッチマは、

そのままの勢いで、
私を・・・

ハグしてくれたんだ・・・。


???????

車から一緒に降りてきたファッチマの彼女が言う。
「昨日宿に帰って来なかったから、村中探して。
食堂や酒場、また広場にも何度も行ったり、海に落ちたんじゃないかと話したり、
友達にも手伝ってもらって、深夜3時まで一晩中村を探したの。

ソレで日が昇って、市場であなたらしき人が、この家の村民と一緒に
いたって言う人の話を聞いて。
慌ててココまで来たのよ。そしたら本当にあなたがいて・・・。
とにかく、無事で良かったわ。本当に良かった・・・」

えええ?何で?何でそんな大騒ぎになってるの?
ファッチマの宿、無断外泊したお客さん、初めてだった?
そういやあの宿、看板も描きかけだったけど・・・。
マジで、まだ宿初めてスグだったのかな・・・。

でも、わざわざ一晩中探してくれて、ありがとう・・・。
心配かけてごめんなさい・・・。本当にごめんなさい。

ファッチマは、謝る私を再度ハグしてくれて。
そうしたら、ファッチマの愛の大きさに、私は感謝と謝罪の、
良くわからない感情が爆発して。

ねえ、でもさファッチマ、探し回ってくれたのは有難いんだけど、
何でそんな風に、一晩中私の事、探したりとか出来るの?
何でソコまで私の事心配出来るの?
ファッチマ、冷静になりなよ。私、単なるお客だよ?

ていうか、私、ソコまで人の事心配したりとかした事ないよ?
そんな事に人の事思ったりした事もないよ?


ファッチマは彼女を振り返り、再度私を見つめて言う。

だって・・・そんな風に誰かを心配するのは、


普通の事だろ?


!!!!!!!!!!!!!!


何それ?何それ?
ソレ普通なの?
ソレが普通の優しさなの?
ていうか、何でファッチマはそんなに優しいの?
ていうか、旅で思い知ったけど、何でみんなはそんなに優しいの?
何で私以外のみんなはそんなに優しいの?
何で私は優しくないの?
私だって優しくなりたいよ!
私も誰かの事をそんな風に思える人になりたいよ!!!!!!!


その日は泣きながら宿に戻って、感謝と謝罪で宿の大掃除をした。

ファッチマはそんな事しなくて良いのに。と言ったけど、
私はもうどうして良いか、わからなかったから。
必死で、そんなカタチでしか、お返しする事しか、出来なかったから。


翌日の夕方は、以前から予約していたチリ本土に戻るフライト。
空港まで見送ってくれたファッチマは言う。

「あなたはね、自分で優しくないと言うけど、あなたが思うよりは、
十分に優しいと思うよ。目の前の人の事、遠くの誰かの事、大事に出来てるよ。
昨日は言えなかったけど、ソレが「優しさ」かなって。

それとね、宿の掃除してくれてありがとう。
コレも考えたんだけど、例えばね、ありがとうはね、その時、誰かに
返せなくても、また別の誰かに返せば良いんだよ。
そしたら、そのありがとうを受け取った誰かがまた誰かにありがとうを回すよ。
そうしたら世界はもっと優しくなるって?
うん。世界はもう十分に本当は優しいんだけどね!

とにかく・・・今回は大変な滞在になっちゃったけど、
どうか気にせずにね。またこの島に遊びに来てね」

ファッチマの心からの優しさが沁みて、
私は泣くことしか出来ない。

私はこの先で、ボランティアの予定がある。
そこで、少しはありがとうが返せるかな。
誰かに優しく出来るかな。
出来ると良いな・・・。
ていうかもう、やるしかないんだけど・・・。


飛行機の窓いっぱいに広がる風景は、サンセット直後の太陽。
ビビットオレンジの光だったのも、今や放つ光ももう無い。
その美しさのまま地平線にぽちゃんと落ちきれば、もう、星ヒトツ。
ソレら全てが優しさだなんて、私が気がつくのは、まだもう少し先の話。




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